- 『NEWSを疑え!』第236号(2013年8月29日号)
- 【今回の目次】
◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
◇◆セキュリティ不在――日本の深刻な現実
◆ノーベル賞学者でも答案を書けない
◆電波のシールドくらいやれよ
◆秘密保全?悪い冗談だよ
◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
・シリアに武力を向けるオバマの世界観とは
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
・日本が備えるべき敵基地攻撃能力の第1ステップ?(西恭之)
◎編集後記
・『人民中国』が報じた尖閣問題
◇◆セキュリティ不在――日本の深刻な現実
国際変動研究所理事長 軍事アナリスト 小川和久
Q:安倍晋三政権の発足から9か月。強いリーダーを目指す安倍さんは、小泉政権のようなトップダウン型の政治を指向しています。そこで気になるのが、安倍さんをトップとする会議・本部などのメンバーやスタッフのあり方です。小川さんはかねてから、その問題を指摘していましたね。
小川:「私は2012年8月24日、野田佳彦首相(当時)が香港活動家らの尖閣諸島上陸事件(8月15日)を受けて開いた緊急記者会見をテレビで見て、のけぞった記憶があります。演説がうまい野田さんは、『日本は世界に冠たる海洋国家でございます』とぶち上げた。そして、日本の領海と排他的経済水域(EEZ)の総面積は世界第6位、深さを考えれば体積は世界第4位だ、と続けました。いいぞ、いいぞ、と私は聞きはじめたのですが、中身は乏しかった。内閣総理大臣がわざわざ出てくるほどの緊急性も重要性もありませんでした」
「緊急会見で野田さんが伝えたのは、こんなことです。これまでは離島などに外国人が上陸すると、取り締まるため警察官が現地に行かなければならなかった。尖閣諸島であれば沖縄県警の警察官をヘリで運ぶ必要があった。その外国人が乗る船を監視し、警告するのは海上保安庁の巡視船艇なのに、上陸されたら海上保安官には手も足も出ない。これでは迅速な対応などできないし、海保と警察の出動という二度手間にもなる。だから、海上保安庁法を改正して海上保安官が不法上陸者を検挙できるようにしたい、改正案が衆議院を通過したので成立に協力してほしい、というのです」
「それはそれでよいのですが、首相が緊急記者会見を開いて国民に伝えるほどの話か、といえば明らかに違いますね。私は呆れて、のけぞりました。こんなお粗末なレベルだから、海洋国家としてのセキュリティもなっていない。だから中国政府の船に領海侵犯を繰り返されるのです。日本は海洋国家として生きていくほかない国です。領海と排他的経済水域を合わせると世界第6位の広大な海を持っています。第15位の中国よりはるかに広い海を持つ日本が、水産資源、鉱物資源、エネルギー資源といった海洋資源を守り切るための取り組みをするのは当たり前でしょう。それなのに、政治家、官僚、学者、経済界、マスコミも『海洋国家』を口にするわりには、自覚に乏しいのです」
「そこで、私は首相が本部長を務める総合海洋政策本部のメンバーをチェックしました。すると案の定、海の専門家はずらりとそろっていても、セキュリティ専門家が1人もいません。ずば抜けて頭の切れる官僚OBはいても、セキュリティについては通り一遍の知識しかないのが実情です。セキュリティ専門家がいれば、強制力を備えた領海を守る法律を整備する、海上自衛隊と海上保安庁をシームレスに機能できるようにする、海上保安庁と警察の役割分担を見直すなどということは当たり前で、とっくの昔に実行されているはずなのです」
魚釣島に上陸した香港活動家ら。5人は沖縄県警、9人は海上保安庁に
逮捕され、強制送還された(2012年8月15日、海上保安庁撮影)