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『NEWSを疑え!』第363号(2015年1月19日特別号)

『NEWSを疑え!』第363号(2015年1月19日特別号)
◎テクノ・アイ(Techno Eye)
・これが米中央軍ツイッター乗っ取り事件の実態だ
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)
◎編集後記
・「電話閣議」の前にやるべきこと(小川和久)

◎編集後記

・「電話閣議」の前にやるべきこと

 阪神・淡路大震災の20周年がやってきて、日本国民は災害対策をはじめとする危機管理の重要さについて、思いを新たにしたと思います。

 しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れるの言葉通り、本当に国民の安全を確保するための取り組みは、あるときは形式に流れ、またスローモーに過ぎてきたとしか言いようがないのが現状です。

 阪神・淡路大震災のときも、スピードを欠いた首相官邸の意志決定が被害を拡大してしまったと指摘されたわけですが、それから20年がたったのに、そして日本人が苦手としている外交・安全保障・危機管理に積極的に取り組んでいる安倍晋三政権においても、同じようなことが繰り返されているのを看過することはできません。

 まずは、以下の新聞記事をご覧ください。

 電話閣議決定を検討 「グレーゾーン事態」で迅速判断

「政府は、国籍不明の武装集団が日本の離島に上陸したり、船舶を攻撃したりする事態に際し、自衛隊の出動を素早く決めるため、各閣僚の了解を電話だけで済ませて閣議決定できるようにする検討に入った。警察や海上保安庁では対応できないケースで、実際に閣僚が官邸に集まらなくても、口頭での了解で内閣による出動判断を短時間に出すのが狙いだ。

 政府は、日本が他国から武力で侵略されているとは判断できないが、自衛隊による対応が必要な『グレーゾーン事態』と呼ばれる状況を想定。防衛省関係者によると、電話での閣議決定で出動を決める事態は、(1)国籍不明の武装集団が離島に上陸した場合(2)日本の船舶が武装集団から攻撃された場合(3)外国軍艦が領海に侵入した場合――の三つのケースを検討している。

 自衛隊法などに基づく自衛隊の出動は、侵略などに対し実際に武力で反撃する『防衛出動』のほか、自衛隊が警察権に基づいて限定的に武器を使う『海上警備行動』や『治安出動』がある。いずれも出動を閣議決定した上で、首相や防衛相が命令を出す仕組みになっている。

 現行でも、緊急時には閣僚の署名を順番に集める『持ち回り閣議』という方法があるが、閣僚の了解を電話で得ることで、より迅速な対応をめざしている。電話閣議の導入に法改正は必要なく、政府は手続きを定めた閣議決定を、与党間で合意ができ次第、行う見通しだ。

 安倍晋三首相は、日本の存立が脅かされる場合に限って他国で武力を使う集団的自衛権のほか、グレーゾーン事態への迅速な対応などで『切れ目のない安全保障体制』を築く方針を示している。(三輪さち子)」(1月15日付け朝日新聞

 一見したところ、大きく前進したかのように見えますね。しかし、専門家の立場からすれば、「いまごろ、やっとかよ」「物事には順番があるだろう」と毒づかざるを得ないのです。

 だって、そうでしょう。これはグレーゾーン事態への対応強化を打ち出した昨年7月の新たな政府見解を受けた取り組みで、電話のシステムを導入するのに6カ月もかかっているのですから、グレーゾーン事態も有事もあったものではありません。

 この程度の電話の仕組みは1カ月以内に手当てできなければなりません。バラバラの機種でもよいし、手作りに近いものでも構わないから、とりあえずは必要な機能を発揮できるものを備えるのが有事への備えというものです。こんなスローモーでは、危機が現実となったら、日本は滅びてしまいますよ。

 物事の順番ということでも、ひどすぎる状態が放置されています。

 首相官邸では、携帯電話の持ち込みが規制されていません。そればかりでなく、地下の危機管理センターを除いては、盗聴防止用の電磁波のシールドが施されていないのです。この点は、現在の首相官邸がオープンする直前の2002年3月26日に私がチェックを任され、指摘した当時の状態のまま、ずっと放置されてきたのです。

 シールドがあっても盗聴はいくらでも可能です。しかし、シールドや携帯の持ち込み規制は危機管理に対する意識のレベルを知る指標となる措置なのです。

 情報漏洩を防ぐためのカウンターインテリジェンスの会議が首相官邸で行われても、携帯の持ち込みが許され、電磁波のシールドがないのでは、悪い冗談では済まない悲惨な事態を招きかねません。

 グレーゾーン事態に盗聴防止機能を備えた携帯電話で電話閣議をしても、会話そのものを傍受されたら相手国は楽々と対応策を講じることが可能になります。その対策があるのか。

 物事の順序を着実に踏まえ、迅速に必要な措置を講じることを望んでやみません。

(小川和久)