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『NEWSを疑え!』第369号(2015年2月9日特別号)

『NEWSを疑え!』第369号(2015年2月9日特別号)
◎テクノ・アイ(Techno Eye)
・航空機の対地衝突事故がなくなる?
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)
◎編集後記
・基本を忘れた在外邦人救出の議論(小川和久)

◎編集後記

・基本を忘れた在外邦人救出の議論

「イスラム国」人質事件を受けて、自衛隊による在外邦人の救出に関する議論が高まっています。いまの国会で、政府は海外でテロなどに巻き込まれた邦人を救出することが可能となる法律を整備する方針です。

 政府は以下のようなケースを想定しているようです。

「(前略)政府関係者によると、1996年に起きたペルー大使公邸人質事件や2013年1月にあったアルジェリア人質事件のように、テロ集団が邦人のいる特定の施設を占拠した際、自衛隊が施設の敷地内まで入って邦人の救出に当たる事例だという。首相周辺は『あくまでその国の警察力の代わりだ』と説明する(後略)」(2月4日付け朝日新聞朝刊)

 2013年1月のアルジェリア人質事件を受けて同年11月に自衛隊法が改正され、それまでの海外での法人輸送が航空機と船舶だけに限られていたのが、法改正によって陸上輸送にあたることも可能になりました。

 一見したところ、政府の方針によって在外邦人の安全は飛躍的に高まりそうな印象さえあります。

 しかし、この議論にはおかしな点があります。

 考えてみればわかることですが、いくら法律と制度を整備して自衛隊を出せるようにしたとしても、できることとできないことがあります。それが踏まえられないまま、議論が進められようとしています。

 まず、今回の「イスラム国」のケースのような形で人質になった在外邦人の救出に、陸上自衛隊特殊作戦群などの特殊部隊を投入することは、考えられないのです。

 世界の特殊部隊にあって、「地球の裏側」でも単独で人質救出などの任務を遂行できるのは米軍だけです。この任務には、情報・通信など特殊作戦に必要な兵站能力が不可欠で、それを備えているのは米軍だけだからです。

 それもあって、イギリス、オーストラリア、ドイツなどの特殊部隊は、これまでも米軍との組み合わせで行動しています。

 ましてや、今回の「イスラム国」のケースでは、その米特殊部隊でも人質救出は難しかった。その点は押さえておきたいものです。

 在外邦人が内戦状態になった外国から脱出するとき、その支援のために自衛隊が投入される態勢は備えておくべきだと思います。

 場合によっては、24~36時間ほどで避難する在外邦人の警護、輸送などを行うことができるかも知れません。

 しかし、こうした場合にも押さえておくべき課題があります。

 日本の議論には、在外邦人自らが脱出するという点が出てこないのですが、在外邦人は自衛隊が到着するまで現地でじっと身を潜めているのでしょうか。むろん、動き回らないほうがよい場合もありますが、この点をきちんと整理しておかないと、いくら自衛隊を投入する態勢を作っても、役に立たない場合があります。

 世界の常識と日本の落差が歴然と現れたのは2011年2月、アラブの春に見舞われたリビアのケースです。

 アラブの春とは、2010年から2012年にかけてアラブ諸国で発生した民主化を求める大規模な反政府運動の拡がりを指しています。

 このとき中国は、3月2日までのわずか10日間ほどで4万2600人の自国民を、韓国も1400人を脱出させました。日本はといえば、外務省の退避勧告が出た2月25日段階で滞在していた23人の脱出にさえ、政府が力を貸すことができないという状態に終始したのです。

 中国、韓国ともに、民間の航空機、船舶をチャーターし、海軍はソマリア沖の海賊対処部隊の駆逐艦を、中国は中国本土から空軍の大型輸送機を飛ばし、官民が総力を挙げて自国民の安全を図ったわけですが、見逃してならない点があります。バス、トラック、乗用車を総動員しての陸上輸送です。

 とにかく、安全地帯に脱出できればよいわけですから、そこまでの「足」を確保するのが外国における避難や脱出の基本です。軍が来るのを待っているなどということはないのです。軍の輸送機や駆逐艦で脱出した人たちもいますが、過半数の中国人はあらかじめ教えられた危機管理の基本通り、リーダーの指示に従って行動した。だから「10日間で4万2600人」なのです。

 リビアのケースについては、このメルマガ『NEWSを疑え!』2011年5月5日号で西恭之氏(静岡県立大学特任助教)が詳述(「リビア動乱、4万人以上を脱出させた中国の実力」)していますので、バックナンバーをご参照いただければと思います。

(小川和久)