- 『NEWSを疑え!』第19号(2011年6月6日特別号)
- ◎セキュリティ・アイ(加筆版):米国の被曝自己診断ウェブサイト(主任研究員・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(加筆版):衛星能力から見た中国軍。米軍と戦えるのか?(主任研究員・西恭之)
◎編集後記:日本的、あまりにも日本的
セキュリティ・アイ(Security Eye):
◇◆米国の被曝自己診断ウェブサイト(主任研究員・西恭之)
福島第1原発事故に関する日本政府の情報公開の拙劣さは、日本の国際的信頼を大きく損ねることになった。その日本にとって参考になるのは、過去の核実験で出た放射性物質への国民の関心に応えようとする米国政府の姿勢である。
その一例は米国国立ガン研究所の活動だが、米本土で実施された核実験を原因とするガンのリスクについて、国民一人一人が自分のリスクについて計算できるウェブサイトを公開している。
かりに日本政府が、福島第1原発事故によって放出された放射性物質の影響について、世界の人々が利用できる自己計算ウェブサイトを国際協力のもとに構築し、そこから得られたデータに基づいて対策を講じる姿勢を示すならば、国際的な信頼回復の大きな1歩となるだろう。
米国は1945年以来、主に米本土と太平洋で1054回の核実験を行なった。
米本土では1951年から1992年まで945回の核実験が行なわれた。そのほとんどの928回はラスベガス北西約100キロのモハベ砂漠にあるネバダ核実験場でのもので、部分的核実験禁止条約(1963年10月発効)以前は100回の大気圏内核実験と125回の地下核実験、その後も703回の地下核実験が行なわれた。ビキニ環礁をはじめとする太平洋では、1946年から1962年まで大気圏内で101回、水中で5回の核実験が実施された。その他の3回は、南大西洋上空の宇宙空間で部分的核実験禁止条約以前に行なわれた。
ちなみに核爆発の規模の合計は、太平洋での実験が広島型原爆の1万倍に相当する152.7メガトン、ネバダ核実験場における大気圏内核爆発の規模の合計は1.05メガトンである。太平洋での実験の爆発規模が巨大なのは、水爆実験が行なわれたことによる。南大西洋上空の核爆発は小規模で、合計4.5キロトンである。
このうち、ネバダ核実験場での大気圏内核実験によって大気中に放出された放射性物質はヨウ素131だけでも555万テラベクレルと、チェルノブイリ原発事故で放出された全ての放射性物質の合計520万テラベクレルを上回っている。ネバダで放出された放射性物質の大部分は1952年から1957年に集中している。ちなみに福島第1原発事故では、37万〜63万テラベクレルの放射性物質が大気中に放出され、72万テラベクレルが汚染水として発電所内に貯留されていると推定される。
米国民が最も恐れた被曝の経路は、ヨウ素131によって牧草が汚染され、それを食べた乳牛またはヤギの乳を飲んだ人の甲状腺にヨウ素131が蓄積されることによる内部被曝だった。
この事態を受けて米国議会は1983年、保健社会福祉長官に対して「核爆発で放出されたヨウ素131から甲状腺が吸収した放射線量を個人単位で推定するための、根拠と信憑性のある方法を開発するうえで必要な科学研究」と「ネバダでの大気圏内核実験が放出したヨウ素131による米国民の被曝に関する根拠と信憑性のある評価」を進めるよう指示した。
米国国立ガン研究所は、この指示に基づく研究と評価を進めた結果、1997年、データと計算ウェブサイト(https://ntsi131.nci.nih.gov)を公開した。計算プログラムは医学の進歩に応じて更新されている。